芥川龍之介

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故人

芥川文の物語[編集]

さようでございます。夫の死骸を見つけたのは、私に違いございません。明け方、あの人の部屋をのぞいてみましたら、布団の中でぐったりしていたのでございます。枕元に聖書がおいてあったので、はッと思って、葛巻さんに知らせに行ったのですけれど、もうだめでした。

あの人が遺書を書いて持っているというのは知っていました。でもまさか、私を遺して本当に逝ってしまうと思いませんでした。本当に――あの人は、思いつめていたんですね。あの人は、私の前ではとても優しかったのです。結婚する前からそうでした。「文ちゃんは、自然のままの優しい心持でいらっしゃい。■■■■■のように、小さく利口になってはいけません。あれではいくら利口でもいけません。馬鹿です。本当の生まれたままのところがありません。今のままでいらっしゃい。今の文ちゃんは、■■■■■を千人合わしたのよりもっと立派です。」あの人はこう私にいって下すったのです。こんなに優しい人が、何を悩んでいたのでしょう。私には見当もつきません。

ああしかし、こうして一人残された私は、一体どうすればいいのでしょう。いったい私は、私は――(突然激しき啜り泣き)

葛巻義敏の物語[編集]

あいつはこのところずっと変だったのです。遺書を何べんも書いては消し、書いては消し、机の引き出しに放り込んでいたのを見たことがあります。最近は睡眠薬でべろべろになってほとんど一日中寝ていました。自殺の前の晩でしたか、僕の部屋の向かいにあいつの部屋があるのですが、ふすまから上半身だけ出して仰向けになっていましたよ。睡眠薬がぬけてなかったんでしょう。気味悪いので廊下を通って外に出ようとしたら「君も私を置いていってしまうのか。蛍はなぜ死んでしまうのか。ジュピターには何時着くんだ。」とわけの分からないことを訊いたので、無視して立ち去ろうとすると、あいつはいきなり立ち上がり、その拍子に懐から遺書を取り落として、ふっと笑いました。そうして明け方、あいつは机の上に読みかけの泉鏡花を残し、枕元に気障ったらしく聖書を置いて死んだのです。東京帝国大を二番で出たとかいう話ですが、あれでは馬鹿です。奥さんを悲しますなんて。今すぐ僕が行って暖めてあげなくちゃ。

恒藤恭の物語[編集]

彼とは親友でした。高校時代は、私のほかに友人はなかったと思いますよ。孤独なやつでした。あのころはみんな遊んでばかりいて、まじめにやっていたのは彼と私くらいでしたから、優等生気取りの者同士で気が合ったんでしょうね。彼は周りとのいさかいを避けて、影の薄い印象を相手にわざと与えるようなところがありました。彼は実はとても弱い性格だったのだろうと思います。だから、彼が自殺したと聞いても、ただ、ああついにやったかと思うだけです。狂人の女と関係があったとか聞きますが、まあいいでしょう。とにかく、彼は繊細で頭のいい男でした。私の分析では、そこに彼の自殺の原因があると思われます。彼は推薦で高等学校に入り、東京帝国大学を二番で卒業した秀才です。ちなみにそのときの一番は私です。

久米正雄の物語[編集]

芥川は私と同時期に漱石先生に入門しました。見るからに頭の切れそうな男で、先生は彼の顔を見るなり胃が痛くなったといって寝込んでしまわれたのを覚えています。しかし、私の見たところ、そうでもありませんでしたよ。『羅生門』を酷評してやったときのあいつの顔と言ったら。ただ、その後すぐに『』を漱石先生が誉めて下さったとかではしゃいでいましたから、才能はあったんでしょうがね。昔から、集団から外れて一人黙々と勉強や瞑想をしている、不気味でいやなやつでした。それが、『鼻』のことがあって、一気に新鋭作家になってしまいましたよ、まったく。そういえば、ずっと志賀直哉にあこがれていましたね。傾向がぜんぜん違うのに。芥川の小説は、何もかも計算づくで書いているところがあるのです。大方その志賀直哉の真似をしたのでしょうが、『トロッコ』はいけませんでした。まあともかく、あの男が何を悩んで死んだか、皆目分かりませんな。

泉鏡花の物語[編集]

その文、その質、名玉山海を照らせる君よ。どうしてわたくしの小説を最後まで読まなかったのでしゅか。

芥川フキの物語[編集]

あんなことになってしまうなんて。神経衰弱とか何とか言って、最近ずっと変だったんです。私は龍ちゃんだけが頼りで生きてきたのに。

あの子はかわいそうな子です。母親が発狂したので、私が代わりに引き取って育てたのです。私がお乳が出ないので、牛乳しか飲めなかったのをずっと気にしていました。小さいころからお外では全く遊ばないで、家の中で河童の絵ばかり書いている暗い子で、それでも私はとてもかわいかったのですけれど、とにかく変わった子でした。お勉強がとてもよくできて、顔立ちも整っていて、お話も上手だったのに、お友達ができなくてねえ。

――ええ、ええ、あの子は、変な子でした。死ぬ前の晩にね、部屋で寝ていたら「伯母さん、伯母さん」といって入ってきて、私の目の前に紙を落として、へらへらへらへら笑ってるのです。「龍ちゃん、なんですこれは」と言ったのですけれど、へらへら出て行ってしまいました。きっとあのあと睡眠薬を飲んだんです。止めておけばよかった。――それで、落とした短冊をまだとってあるんですけど、変な歌が書いてあったんです。

『自嘲 水洟や鼻の先だけ暮れ残る』

――ほらねえ、変でしょう。もう少しいいことを書けばよかったのに。龍ちゃんはとてもかわいい、いい子だったのですけど、今思い返してみると、やはり、とっても変な子でした。

巫女の口を借りたる死霊の物語[編集]

畜生、おれにはろくな友人がいないのか。めいめい勝手なことを書かれては困る。

――なぜ自ら命を断とうと思ったか、自分でもわからない。ぼんやりとした不安としか言いようがない。このところ、筆が進まないし、毎晩河童の夢ばかり見るので、不安で仕方なかったのだ。ともかく覚悟を決めたおれは、読書をやめ、伯母に辞世の句を託し、睡眠薬をしこたま飲んで横になった。

まどろみ始めたそのとき、忍び足におれの側へ来るものがある。おれはそちらを見ようとした。が、おれのまわりにはいつか薄闇が立ちこめている。だれか、――そのだれかは見えない手におれの首をゆっくり締め付け、おれはそれぎり永久に、中有の闇へ沈んでしまった。………

関連項目[編集]

Wikipedia
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