UnBooks:緑の少年
出典: へっぽこ実験ウィキ『八百科事典(アンサイクロペディア)』
とある王国に1つのおとぎ話がありました。
はた迷惑なブタみたいな魔王と、それと同じくらい迷惑な緑の少年のお話です。
その物語が言うには、その魔王が迷惑なのはもちろんの事だけれど、何故か一緒の時期に必ず現れる緑の少年も負けず劣らず迷惑だ、という事です。
でもおとぎ話が言うには、その緑の少年は魔王を倒してくれたのだそうです。何が迷惑なのかさっぱりです。
おとぎ話は最後にこう言います。
魔王には気をつけろ。いつか蘇るかもしれない。
そして、魔王の次に来る緑の少年にはもっと気をつけろ。家の鍵をかけるのを忘れるな。
さて、あるとき王国で変な事が起こりました。
急に村のまわりで魔物が増え始めたのです。
みんなは心配します。「まさか本当に魔王が現れたなんて事は…」
でも、しばらくすると魔物は人のいる所には決して入ってこない事が分かりました。
何故だかは分かりません。けれど、とにかく村や町には入ってこないのだから安心です。
みんなは特に気にせずそのまま暮らしていました。
そんなある日、王国の城下町に1人の青年が現れました。
上から下まで緑の服に身を包み、背中に盾と剣を背負っています。
みんなは驚きました。なぜなら、その格好がおとぎ話に出てくる緑の少年とそっくりだったからです。
でも所詮はおとぎ話。はじめは驚いても、あとは特に誰も気にしません。
それに、おとぎ話が注意しているのは「子供」。「青年」に気をつけろなんて一言も言われていません。
青年はまず雑貨店に向かいました。
矢や薬を買ったようです。お金もきちんと払っています。
次に青年は射的場に向かいました。
自前の弓でパーフェクト。賞品を持っていかれたおじさんは少し涙目です。
最後に青年はお城へと入っていきました。顔パスです。
お姫様と談笑しています。町の人々もあんな男と姫様が知り合いなんて、とびっくりです。
さて、お城から出てきた青年は近くの民家へと入っていきました。
特に人目を気にすることも無く、輝く太陽の下堂々と入っていきます。
家の人も、何故かいきなり入ってきた青年にびっくりすることなく、和やかに談笑します。
家中の人と話した後、青年はおもむろに廊下に置いてあった壷を持ち上げ、廊下に叩きつけました。
派手な音を立てて砕ける壷。床には壷の破片と一緒に、奥さんのへそくりなのかルピーが光っています。
青年はごくごく自然にそれを拾い上げ、自分の財布にしまいました。
それを見ている家の人は、何故かそれを注意しようとしません。
そうしているうち、青年は次々に壷を叩き壊していきます。
ついでに台所ではタルも壊し、寝室ではタンスを漁り、たまたま部屋に置いてあった宝箱も勝手に開けて中身を失敬していきます。
庭に出てはご主人が育てていた草を切り払い、地面をスコップで干し返していきます。
ひとしきり家中のものを物色すると、青年は挨拶もなく家から出て行きました。
青年がした事を全て見ていたはず家の人は、何故か青年を呼び止めることさえできませんでした。
家を出た青年は、また別の家へと入っていきます。
その家でも壊し、漁り、こじ開け、切り払い、掘り返します。
そしてまた青年は別の家へ…。
結局、青年は町中の全ての家で同じ事をしました。
けれど、誰も青年を怒りません。自分の家が荒らされたのに、何故か怒れませんでした。
その後、青年は王国中を旅しました。
ある時は草原の草を刈りつくし、ある時は古代の遺跡に押し入って中の宝を漁り、そしてまたある時は人家でものを物色していきました。
そしてある時、青年はついに魔王を封印しました。
なんと、青年は魔王を封印するために戦う勇者だったのです。
王国のひとびとは何がなんだか分かりませんでしたが、お姫様がそう言っているので間違いないのでしょう。
魔王が倒され、魔物が減ってみんなは大喜びです。
でも、魔王がいたところで魔物は町に入ってこなかったのですから、生活が変わった実感はありません。
それに、家を荒らされた人々にはどこか釈然としない気持ちが残りました。
その後、おとぎ話には新たな一節が加えられました。
「緑の少年には気をつけろ。時々やって来る緑の青年にも気をつけろ」