奥地等産業開発道路

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奥地等産業開発道路(おくちとうさんぎょうかいはつどうろ)とは、奥地等産業開発道路整備臨時措置法で指定された道路のことである。

目的[編集]

都市部や郊外、また内海に面した沿岸部では、総じて道路網はよく発達している。一方で、田舎、というか山奥では道路の整備が遅れがちである。また、山間部の小自治体の財政規模では、山を切り拓いたり長大橋を架けたりすることは難しいので、この際、国が財政的な面倒を見て奥地の道路を整備しましょうということになった。

そこで1964年、奥地等産業開発道路整備臨時措置法(以下、法)が成立し、建設大臣が具体的に道路を指定することにした。

定義[編集]

奥地等[編集]

法第2条では用語の定義がなされている。まず、「奥地等」とは「交通条件がきわめて悪く、産業の開発が十分に行なわれていない山間地、奥地その他のへんぴな地域で政令で定める基準に該当するものをいう」とされている。そこで政令(奥地等産業開発道路整備臨時措置法施行令。以下、施行令)を引用してみる。

(奥地等)
第1条 奥地等産業開発道路整備臨時措置法(以下「法」という。)第2条第1項に規定する政令で定める基準に該当するものは、次の各号に掲げる要件に該当する市町村の区域とする。
  1. 高速自動車国道若しくは一般国道又は鉄道の停車場から通常の交通の方法及び経路により1時間以内に到達することができない地域の面積が、当該市町村の区域の面積の2分の1以上を占めていること。
  2. 公表された最近の国勢調査の結果による当該市町村の産業分類別就業者数のうち、農業、林業・狩猟業及び漁業・水産養殖業に係るものの合計数を当該市町村の産業分類別就業者数の総数で除して得た数値が0.568をこえていること又は当該市町村の1平方キロメートル当たりの人口が119人未満であること。

まず、1つ目の要件だが、法律が制定された当時はいざ知らず、近年の我が国には大抵どこでも高速道路や国道が通っているものである。たとえば合掌造集落で有名な岐阜県白川村。多くの人が「へんぴな地域」に該当すると考えるであろうが、当村には国道156号が縦断し、国道360号が横断し、さらに東海北陸道まで通っているので、1つ目の要件から外れる。あるいは伊豆諸島新島。たしかに離島は交通条件が悪いへんぴな地域だ。しかし新中央航空の飛行機で調布飛行場から40分なので、都内の国道20号から調布飛行場までの時間や、新島空港から島内各所までの時間を考えても、新島の相当の範囲が「一般国道から1時間以内」で到達できてしまうことになる。

次に2つ目の要件だが、たしかに法律制定時には我が国でも多くの人が第一次産業に従事した。しかし近年の我が国で、その割合がいかほどかご存じだろうか。たとえばパイロットファームと称した農業振興が行われた北海道別海町で40.1%、東北地方の代表的な漁業都市気仙沼市で12.5%、米どころ新潟県南魚沼市では12.6%にとどまる。秋田県大潟村(78.2%)のように、第一産業従事者が非常に多い自治体もないわけではないが、56.8%を超えている自治体は極めて少数である(データはいずれも2008年)。我が国全体の第一次産業従事者の割合が2割を切った1970年頃には、すでに「56.8%」はなかなか高いハードルになりつつあった。

そして、これはあくまでも市町村を単位としているのも問題である。たとえば平成の市町村合併が進んだ今日、静岡県の山岳部、たとえば安倍川の上流部や天竜川の中流部を整備したくとも、静岡市浜松市という大括りで評価され、奥地等には当たらないと判断されてしまうわけだ。

産業開発効果[編集]

法第2条3において、「『奥地等産業開発道路』とは、奥地等における次に掲げる地域で政令で指定するものと主要な道路とを連絡する地方的な幹線たる道路」と定義されている。そこで掲げられている地域とは、

  1. 森林資源が豊富に存し、かつ、その開発が十分に行なわれていない地域
  2. 酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律(昭和29年法律第182号)第3条第1項の規定により指定された集約酪農地域
  3. 農用地としての開発及び整備が必要とされる相当規模の開拓適地その他の地域
  4. 地下資源が豊富に存し、かつ、その開発の効果が期待される地域
  5. 水産物の集散地としての発展が予想される地域
  6. 観光適地でその開発が十分に行なわれていない地域
  7. 低開発地域工業開発促進法(昭和36年法律第216号)第2条第1項の規定により指定された低開発地域工業開発地区、産炭地域振興臨時措置法(昭和36年法律第219号)第2条第1項に規定する産炭地域その他の工業の発展が予想される地域

ひとつひとつ検討しよう。

まず、1は林道で十分である。同じころ、我が国では、大規模林道、スーパー林道などの林道が開発されていた時期であり、わざわざ奥地等産業開発道路で整備する理由は皆無。ゆえに無視できる。

3は、利水が良くて集約酪農地域でもない広大な未開発平坦地のことを言っているわけだが、狭い国土でそのような場所が手つかずで残っていることは極めて稀である。さらに減反政策が行われていた昭和後期以降の日本において「相当規模の開拓適地」もへったくれもないので、無視できる。

4だが、そもそも我が国ににそれほど地下資源は存在しない。珍しく石油天然ガスが出る新潟県魚沼地域にはすでに国道が多数存在するので該当しない。地熱資源は温泉地として開発されている場所に近接するので、やはり新たに開発する対象とはならない。ゆえに無視できる。

5だが、水産物の集散地はすでに釧路宮古気仙沼焼津、勝浦、境港などいくらでも存在する。とくに近年は遠洋漁業も不振で、今後わざわざ未開発な地域を発展させる理由もないので無視できる。

6だが、観光適地というのは、優れた文化があるか、優れた自然がある場所のことを言う。しかし未開な地に優れた文化が形成されている例は(三仏寺投入堂のような例もあるので皆無ではないが)稀なので無視する。優れた自然のある場所に道路を整備することは、現実問題として環境省(1970年代当時は環境庁)が許すわけもないので、やはり無視できる。

そして7だが、いくらなんでも国道も通っていないような場所は「低開発地域工業開発地区」には指定されないし、工業が発展することもないだろうから、無視できる。

というわけで、結局は2の地域しか該当しないのである。ちなみに、酪農といえばまず北海道が思い浮かぶであろうが、北海道内に奥地等産業開発道路の指定を受けた路線は存在しない(なぜなら道路法施行令によって、北海道は奥地等産業開発道路の指定を受けるよりも有利に開発道路を整備できるためである)。

国の負担[編集]

負担率[編集]

奥地等産業開発道路が指定されると、同路線の新築や改築に必要な額の最大55%は国が負担する。ゆえに、奥地等に道路を新設したいが財政規模の小さな自治体にとっては、国の援助を受けることが出来るので、大助かりである。

とはいえ、道路整備事業に係る国の負担率は、高速道路(直轄方式)で75%、直轄国道で約67%、補助国道で50%となっている。都道府県道や市町村道でも50%を上限に国が負担することが定められている。だから、最大55%というのはさして旨みのない数字と言えよう。

さらに今一度法を読んでみる。

(奥地等産業開発道路整備計画の実施に関する措置)
第5条 政府は、奥地等産業開発道路整備計画を実施するため必要な資金の確保を図り、かつ、国の財政の許す範囲内において、その実施を促進することに努めなければならない。
2 前項の場合において、奥地等産業開発道路の新設又は改築に要する費用に係る国の負担割合又は補助率については、道路法(第88条を除く。)の規定にかかわらず、10分の5.5の範囲内で、政令で特別の定めをすることができる。

まず、「国の財政の許す範囲内において」と書かれている。国債発行額が膨らんでいる近年の日本において「国の財政の許す」状況にはないので、資金の確保や整備計画の実施に努めなくてもよいことになっている。また、「10分の5.5の範囲内で、政令で特別の定めをすることができる」ので、国の負担率を55%よりも引き下げるのも自由である。ますます国の無責任さが際立つ条文になっているのだ。

実は法制定当初は、国の負担率は75%であり、それなりに意味があった。しかし1985年に67%になり、翌1986年に60%になり、1989年に57.5%になり、1993年に55%になった。年を追うごとに使えない法律になっていったわけである。

負担対象[編集]

では、何に対して国は負担してくれるのか。施行令第4条には、道路構造令の規定による基準に依らないで改築できるもの、突角の切取り、路床の改良、排水施設の整備、待避所の設置、道路構造令第23条第2項に規定する基準によることを要しない場合における当該道路の舗装などについては、国が負担しなくてよいことになっている。早い話、細々した工事は全部おまえら(地方)で金出せや、ということである。

ここで、道路構造令第23条第2項への言及があったので引用する。

車道及び側帯の舗装は、その設計に用いる自動車の輪荷重の基準を49キロニュートンとし、計画交通量、自動車の重量、路床の状態、気象状況等を勘案して、自動車の安全かつ円滑な交通を確保することができるものとして国土交通省令で定める基準に適合する構造とするものとする。ただし、自動車の交通量が少ない場合その他の特別の理由がある場合においては、この限りでない

奥地等産業開発道路は自動車の交通量が少ないことが予想されるので、道路構造令第23条第2項の規定する基準によることは要さないと解釈される。つまり、舗装はおまえら(地方)で金出せや、ということになる。

有名な道路[編集]

たとえば検索ポータルで「奥地等産業開発道路 一覧」と検索してみても、具体的な路線名はほとんどヒットしない。ゆえに指定を受けた路線名の全貌は闇に包まれている。その中でも、比較的有名な道路を紹介したい。

岩手県道212号雫石東八幡平線
八幡平の風光明媚な場所を通る路線として、#産業開発効果の6で掲げられた理由で指定された。しかし早くから自然保護団体からの抗議を受け、一部計画変更して工事を再開したものの、法を逸脱した工事で原生林を破壊し、さらに収賄事件まで明るみに出て工事は中断。現在も未完のまま、道路は使うあてもなく放置されている。
太田沢内線(町道横沢バチ沢線・村道安ヶ沢線)
秋田県大仙市(旧太田町)と岩手県西和賀町(旧沢内村)を結ぶ25kmの峰超えの道路。奥地等産業開発道路の話はいつの間にか有耶無耶になった。秋田県側は未舗装ながら開通したが、岩手県側は特別豪雪地帯代行事業名目で工事が進められたが一部区間未開通で終わっている。当然、通行止めとなり、事実上工事も放棄されている。
青森県道・秋田県道317号西目屋二ツ井線
青森県と秋田県を釣瓶トンネルで結ぶ路線で、弘西林道としても知られている。1978年着工、1994年に釣瓶トンネルが開通して完成されたとされる。長い山道と激しい勾配が続くうえ、未舗装区間が長く、土砂崩れや降雪でよく通行止めになることでも知られている。

効果と終焉[編集]

結局、社会の変化の中で路線の指定は年を追うごとに厳しくなり、メリットは少なくなっていった。それでも1998年に以下のとおり閣議決定がなされた。

奥地等における産業の総合的な開発の基盤となるべき奥地等産業開発道路の整備を促進することにより、(中略)平成10年度以降五箇年間に地方公共団体の行う単独事業を含めて総額3,040億円(調整費120億円を含む。)を奥地等産業開発道路整備に投資するものとする。
このうち国の補助金その他の経費の交付に係る道路の整備に関し、奥地等産業開発道路整備臨時措置法(昭和39年法律第115号)第4条第1項に規定する奥地等産業開発道路整備計画として、調整費を充当するものを除き、2,290億円に相当する事業を行うものとし(後略)

つまり、21世紀を目前にしてもなお、750億円(3,040億円-2,290億円)が奥地等産業開発道路として整備される予定になっていた。だが、実際どれだけ整備されたかの記録はインターネット上にもほとんど残っていない。

そして2003年に法は失効した。何のためにこの事業が開始され、どのような効果があったのかも不明なままであった。ウィキペディアの産業道路という記事にも「地方において産業道路と呼ばれた道路には、奥地等産業開発道路整備臨時措置法(1964年制定・2003年失効)による補助を受けながら整備した物も多い。」と書かれてはいるが、出典はないし、詳しい解説や一覧もない。

もともと「うまくやったら開発できるかもしれない」程度のへんぴな場所に設定された路線が多いので、整備途中で放棄された道路は、林道や登山道にさえも転用できていない。そして現在、各地の奥地等産業開発道路の多くは、ときどきシカタヌキが横切るくらいで、人知れずひっそりと廃道と化している。

関連項目[編集]

  • 特定森林地域開発林道:昭和中期に事業化され、各地の山間僻地で大規模な林道開発が進められたが、その多くは未整備のまま放置されたり廃道化した。「スーパー林道」という薄っぺらなネーミングのほうが知られている。